第3回

謎の病気(?)

「ラタ」

★パイナップルボンバー洋平のトラウマを起こした病気に迫る

その日は、関係者5名+マレー人のJAYA君とZAINAL君の計7名で行った新しい国立公園(マルダム国立公園)からの帰途でありました。青空が広がる農園の広々とした道路を差し掛かった時、社長が、いつもの思いつきで、「皆にパイナップルを買ってあげる」と。これが不幸の前兆だったのでした、今思えば・・・。

道端で果物や野菜を売っている小屋の横に車を止めると、なんかアレックスが、「社長、いくつ買いますか?」と尋ねながら、勢い良く車を出て行きました。社長は、「ん~~~。一人2個で、14個かな」と言ったのも束の間、小屋のマレー人のおばちゃんに向かって、14個のパイナップルを頼んで、車に置こうとしたのですが、アレックスが、冗談のつもりで、車内の私の右隣の小麦粉ユディへ投げる振りをしたのですが、私の左目に、マレー人のおばさんが、アレックスと同じ動きをしている。「あ、まずい」と思うも既に遅し、そのマレー人のおばさんは、ラグビーボールをパスする様に、パイナップルが回転しながら、私の目の前を過ぎて、ユディの前方の座席でくつろいでいた洋平に向かって、真っ直ぐ、さらに回転を強めて、顔面の中央に直撃したのでした。「ナイス・パス」とおばさんに言いたかったのですが、既に、笑いが止まらない私とマレー人の2人とユディと、何が起こったのか理解していない中国系のアレックスと洋平は、長い沈黙の中で、お互いを見つめ合うしかありませんでした。

洋平は、怒るべきなのか、黙っておくべきなのか、顔は痛いし、何とも困った状況でした。私は、一瞬、「怒る」選択を取りそうだった洋平に、事情を説明しました。アレックスが、14個と頼んだ時に、「ラタ」と言う病気である事は、分かっていました。この「ラタ」と言う病気は、①びっくりしたりした時に変な言葉を発したり、②誰かがしゃべるのを聞いただけで、それに追従したり、③目の前にいる人の行為を、意図せずに真似をする行為にかりたたれ、④「してはいけない」と思えば思うほど、より的確に真似をするのです。アレックスが、「パイナップルを14個くれ」と言った瞬間に、そのおばさんは、その言葉を繰り返した上で、奇声と意味不明の言葉を発したのでした。これは、「ラタ」のパターンの一つ。さらに、追い討ちを掛ける様に、アレックスがパイナップルを投げる真似をしてしまったのですが、おばさんが、パイナップルを丁度持っていたので、そのまま、アレックスの真似をして、投げたのでした。普通の時に投げたら、あんなに上手く投げれない筈なのに、こういう時に限っては、顔面ど真ん中ストライクに、ラガーマンの様に投げちゃうんですね、この病気は・・。不思議な病気です。因みに、中国系にはいない様ですが、マレー人やイバン族の女性に限る病気の様です。因みに、年配の方だけでなく、18歳位でも、環境によっては、そういう性質を持つみたいです。私の知る事例を少し並べて見ましょう。

イバン族のその家族は、父親以外は、全員女性(4人娘)という、「ラタ」の環境の出来上がった環境で、次女と四女は、どちらかと言うと、おとなしい性格ですが、軽度の「ラタ」で、びっくりすることが起こると、「オンチョロコー」(意味不明)、「チナ・ラウト」(海の中国人??)と言う意味不明な言葉を発します。母親と長女と三女は、中度の「ラタ」ですが、同様にびっくりすると、ちょっと下品な言葉を発するのです。最初は、耳を疑いました。18歳位の女の子、それも、かわいらしい顔しているから、余計に耳を疑いました。皆で買い物に行ったのですが、車から降りて、スーパーへ向かう途中に、ものすごいスピードで走る車が横を通り過ぎました。別に当たるかどうかの瀬戸際と言うわけでも無かったのですが、びっくりした様で、母親は、「ブト・ベサイ」と発し、長女は、「プケ・ミェッ」と発したのでした。その下品なイバン語を知っている私は、最初、その車に怒っているのかと思いました。しかし、事ある毎に、といっても、持っているものが落ちそうになるとか、突然、大きな声の人が通るとか、その程度ですが、その下品な言葉を発するのです。父親に聞いてみたら、「ラタ」である事が判明しました。どうも、この家族は、父親と次女と四女が仲が良いので、「ラタ」度が低く、母親と長女と三女が仲がよいので、どうも、連鎖反応で「ラタ」度が相乗的に高くなっている様です。

次は、ハードコア「ラタ」ですが、先のパイナップル事件もその部類になるのですが、目の前に起こった事と同じことをする。嫌でもしてしまう。その気が無くてもしてしまうのです。例えば、その「ラタ」の人が、水の入ったグラスを持っているとします。その正面にいる人が、グラスを持っていなくても、手を同じ様にした上で、手を揺らしてみて下さい。普通の考えでは、そのグラスをどこかに置けば良いのですが、それもせず、水の入ったグラスを揺らしてしまうので、グラスから水が溢れ出しても、そのまま、止まらないのです。今度は、ハードコア「ラタ」の人が、手に何か持っている事を想定してください。あなたは、その人に向かって、何かを投げる振りをして下さい。振りで良いです。何も無くて良いです。反射的に、その「ラタ」の人の「何か」が、自分、もしくは、そのあなたが投げようと向けた方角に、その「何か」が狙いを定めた様に飛んでいく事でしょう。その「何か」は、お菓子でも、スプーンでも、グラスでも、下手をすると、ナイフを持っていたら、怖いですね。「ラタ」の人の近くにいる時は、注意しましょう。でも、そうかどうか分からないと言う人もいるかもしれませんが、よ~く観察してみてください。

ちょっとした事で、ベラベラ高速で話すのは要注意です。超高速です。現地の人も分からない位の早さです。「ラタ」は一種の病気ですが、気が触れている訳ではありませんので、びっくりさせなければ良いのです。これを読んだ人であれば、少なくとも「ラタ」の基本は理解していると言えるでしょう。病気は、病気でも、社会生活では、一切問題ありませんので、特効薬はありません。周りの人は、またかって程度で、そんなに気にしません。本当に治したい人は、一応、方法はあるみたいですが、真意は分かりません。その人が大便をしたくなったら、食事を与えるのです。それで、トイレに行かせ、大便しながら食事をさせるのです。二つの事を一度にする事を続ける事によって、いろいろ考えなくなって、「ラタ」も次第に治るそうです。本当かどうかは、わかりませんが、今の所、私が知る限り、これが、唯一の特効薬です。

パイナップルボンバー洋平は、こんな形で、「ラタ」を経験するとは、本当に珍しい貴重な体験です。「身をもって制す」、こんな言葉がぴったりですね。これにめげず、頑張って行きましょう。

「人間はだれでも気違いだが、人の運命というものは、この気違いと宇宙とを結びつけようとする努力の生活でなかったら何の価値があろう?」(アンドレ・マルロオ「希望」) ~~~~~ドリ鍋(2006年12月20日)


PS. 「ラタ」は、非常に分かりやすい病気ですが、私が未だに不明の症状が、「アンギン」がたまるという表現です。「アンギン」は、風や空気と言う意味ですが、空気がたまると熱が出たり、体調が悪くそうです。ガスの事かと思いますが、私は、おならで全部出している様で、「アンギン」がたまる事はありません、多分・・・。

ドリ鍋の四方山話

ボルネオ島サラワク州

第1回 ボルネオ島の白人王国「サラワク」(2006年12月10日) 
・・・100年間続いた英国人ブルック家の所有した謎の王国(1841年~1941年)
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第3回 謎の病気(?)「ラタ」 (2006年12月21日)
・・・パイナップルボンバー洋平のトラウマを起こした病気に迫る  
第4回 世界遺産のムル国立公園(2006年12月25日)
・・・秘境のリゾート、巨大洞窟とコウモリ達 、そして、アントゥー
  第5回 マレーシア・バイアグラ「トンカタリ」(2007年1月10日)   
・・・元気が出ます。むくみが取れます。社長の深夜の結果報告もありました。 
第6回 クチンの屋台事情「ラクサ」「コロミー」「経済飯」(2007年1月16日)   
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★特別企画!! サラワク王国時代の国歌 (2007年2月2日)   
・・・2代目白人王チャールズの妻、マーガレット・ブルック作曲によるサラワク王国国歌の音源化。
第7回 とても高い木「タパン」と蜂蜜(2007年2月10日)     
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・・・サラワク先住民族イバン族の森の掟と、受け継がれる知恵 
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第10回 イバン族の食文化(1)(2007年6月20日)     
・・・サラワク先住民族のイバン族の一番大切なもの、それは・・・。
 第11回 イバン族の食文化(2)(2007年6月23日)     
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